以前の記事で、第二種電気工事士の筆記試験および技能試験を独学・低コストで突破した記録(筆記試験対策編/技能試験対策編)、そしてキッチンのインバータ式蛍光灯をAC100V直結LEDへ改修するバイパス工事を公開しました。
今回は住宅設備DIYにおける難関と言われる「ルームエアコンの交換・移設工事」に完全独力で挑みます。周知の通り、家庭用エアコンは国の新しい省エネ基準の適用(いわゆる2027年問題)に伴い、今後は基準を満たさない安価なスタンダードモデルが販売できなくなるため、新品・中古を問わずエアコン全体の市場価格が底上げされていく傾向にあります。価格が高騰しきる前の今のうちに状態の良い個体を確保し、自力で交換できるスキルを身につけておくことは、家計防衛の観点からも非常に有効な選択肢となります。
エアコン工事は一見すると専門業者の聖域のように思えますが、その本質を分解すれば「冷媒配管の確実な密閉(フレア接続と真空引き)」「結露水の重力排水(ドレン勾配の確保)」「専用回路の電気結線」という極めてシンプルな物理原則の組み合わせに過ぎません。
本プロジェクトは作業工程が多岐にわたるため、【前編:準備・撤去・コンセント移設編】と【後編:左抜き配管接続・真空引き・試運転編】の2部構成でお届けします。前編となる本記事では、初期投資の損益分岐点や法的要件の整理から、中古エアコンの徹底洗浄、冷媒を回収する「ポンプダウン」、そして新規エアコン本体と干渉することが発覚した「既存コンセントの緊急移設工事」 までの全記録を公開します。

業者に古いエアコンの撤去と中古エアコンの取り付けを頼んだら、工賃だけで平気で2万〜3万円は飛んでいくで。しかも今回はコンセントの位置まで被っとるから追加工事確定や。だったらその工賃ぶんで専用工具を全部買い揃えて、自分のスキルと資産にしてしまおうという算段やな。

理にかなった投資判断ですね。一度「真空ポンプ」や「トルクレンチ」といった固定資産を手に入れれば、2台目以降は数千円の配管部材費だけで何度でも施工可能になります。まずは今回の総費用と法的ルールから整理していきましょう。
第1章:エアコン交換DIYの総費用と損益分岐点
今回のプロジェクトで実際に投じた費用(本体代・部材費・専用工具代・処分費)の明細は以下の通りです。
| 分類 | 品目・仕様 | 購入価格(税込概算) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 機器本体 | 中古ルームエアコン(SHARP 2019年製) | 15,500円 | 状態良好な動作品をヤフオクで調達 |
| 配管部材 | フレア加工済空調被覆銅管 2分3分(3m)一式 (ドレンホース、サドル、融着テープ、非粘着テープ、パテ、ビス含) |
5,600円 |
ナフコ公式通販(RFPC-233F)にて調達。面倒なフレア加工が不要な時短キット |
| 専用工具 | 真空ポンプ & マニホールドゲージセット | 11,700円 | 今後のエアコン工事や車のメンテにも使える資産 |
| 専用工具 | 空調用トルクレンチ(2分・3分用セット) | 5,500円 | 規定トルクでのフレアナット締付に必須。今回はメルカリにて中古を購入。 |
| 専用工具 | チャージバルブ(コントロールバルブ) | 1,300円 | R32/R410A用。ガス漏れを防ぎ確実に虫ピンを押す必須パーツ |
| 補修部材 | 壁紙補修キット / シリコンコーキング | 700円 (500円+200円) |
内装の微補修および外壁貫通部の防水処理用 |
| 処分費用 | 既存エアコン リサイクル処分関連費用 | 約700円 |
取り外した旧機器の処分コスト。自治体によって異なる。 |
| 予備部材 | (参考)VVFケーブル 2.0mm-3C 等 | ※1,800円 | ※今回は既存配線を再利用できたため実質不使用(ストックへ) |
| プロジェクト総合計(不使用の電線代を除く) | 約41,000円 | うち「次回以降も使える工具資産」が18,500円。 | |
エアコン本体(15,500円)と専用工具一式(18,500円)、さらに配管セット等の消耗部材(7,000円)をすべて含めても、総額41,000円で完結しました。
一般に、ネット通販等で購入した中古エアコンの「既存取り外し+処分+新規取り付け+コンセント移設」を業者へ発注すると、工賃だけで約25,000円〜35,000円が請求されます。つまり、たった1回の施工で専用工具の初期投資(18,500円)は完全にペイできており、次回からは配管セット代(約5,600円)のみでエアコンを自由に交換できる計算になります。
第2章:【重要】法的要件の境界線|資格が必要な作業と不要な作業
エアコン工事をDIYで行うにあたり、「どこからが法律で規制される領域なのか」を正確に切り分けておく必要があります。
【警告】エアコン工事における法的境界線
- 電気工事士が「不要」な範囲: 室内機・室外機の据付、銅管(冷媒配管)の接続、真空引き、ドレンホースの施工、アース線の接続、および「室内機と室外機を繋ぐ連絡電線(VVFケーブル)の接続」(※経済産業省の解釈により、エアコン本体の端子台への連絡線接続は軽微な作業とみなされ無資格でも可能)。
- 電気工事士が「必須」な範囲: 既存の電源コンセントの移設・交換・増設、電圧切替(100V⇔200V)、分電盤のブレーカー交換、壁内配線(VVF)の延長結線。本記事の第6章で行うコンセント移設には免状が必須です。
- フロン回収に関する法規: 家庭用ルームエアコンは『家電リサイクル法』の対象であり、業務用エアコンに適用される『フロン排出抑制法(第一種特定フロン類充塡回収業者登録)』の対象外です。ただし、冷媒ガスを故意に大気放出する行為は環境保護および機器保護の観点から厳禁であり、必ず後述する「ポンプダウン(冷媒回収)」を行います。

実は「既存のコンセントにプラグを挿すだけ」の標準的なエアコン交換であれば、電気工事士の資格がなくても合法的にDIY可能です。しかし今回は新しいエアコンと既存コンセントが物理的に衝突するため、第二種電気工事士のライセンスが役立つことになりました。
第3章:事前準備|中古エアコンの分解・丸洗い洗浄
壁に取り付けてしまってからでは絶対に手が届かない細部まで綺麗にするため、調達した中古エアコン(SHARP製・2019年モデル)を設置前に分解洗浄します。

電装基板やモーターなどの水濡れ厳禁パーツを避け、取り外せる外装カバーやルーバー、フィルター類を中性洗剤とスポンジで徹底的に洗浄しました。内部のアルミフィン(熱交換器)やクロスフローファンに付着したホコリ・カビも、壁掛け前の状態であればあらゆる角度からアプローチできるため、新品同様の清潔な状態にリセットできます。また、電動ドライバやエアダスターを使用するとより効率的に分解・清掃できます。
第4章:既存エアコンの撤去|ポンプダウン(冷媒回収)の物理ロジック
新しいエアコンの準備が整ったら、現在壁に付いている古いエアコンを取り外します。ここで絶対にやってはいけないのが、いきなり配管のナットを緩めて冷媒ガスを大気中に噴出させることです。
取り外しの際は、室内機と配管の中にある冷媒ガスをすべて室外機の中へ封じ込める「ポンプダウン(ガス回収)」という工程を踏みます。
4-1. なぜガスが室外機に集まるのか?(構造の理解)
室外機には、配管が繋がるバルブが2つあります。
- 2方弁(細い管・液側): 室外機で冷やされ液化した冷媒を、室内機へ「送り出す」出口。
- 3方弁(太い管・ガス側): 室内の熱を奪って気化した冷媒を、室外機のコンプレッサーへ「吸い込む」入口(メンテナンス用のサービスポートが付いているため3方弁と呼ばれる)。
つまり、「冷房運転」でコンプレッサーを回しながら、出口である「細い管(2方弁)」のバルブだけを閉めれば、新たなガスは送り出されなくなり、配管内のガスがすべて入口(太い管・3方弁)から室外機内部へと一方通行で回収されるという極めてシンプルな仕組みです。


4-2. ポンプダウンの正確な手順
- 室外機の側面カバーを外し、2方弁(細)と3方弁(太)の真鍮製スピンドルキャップをモンキーレンチなどで外す。
- エアコンの電源を入れ、「冷房(最低温度設定・18℃等)」または「強制冷房運転モード」で稼働させる(コンプレッサーが回り始めるまで数分待つ)。
- コンプレッサーが稼働したら、細い管(2方弁)の六角穴に六角レンチを挿し、時計回りに止まるまでしっかりと閉め切る(送り出しの遮断)。
- そのまま2〜3分間運転を継続する。配管内のガスが抜けていくにつれ、コンプレッサーの駆動音が「ブーン」という重い音から「シャー」という軽い空回り音へ変化する。
- 音が軽くなったら、太い管(3方弁)の六角穴も時計回りに素早く閉め切る(回収完了・封じ込め)。
- 直ちにリモコン(または本体ボタン)でエアコンの運転を停止し、電源プラグを抜く(両バルブが閉まった状態で長く回し続けるとコンプレッサーが過熱破損するため、3方弁を閉めたら即停止が鉄則)。
これで配管内はほぼ真空(大気圧以下)の状態となり、室外機のフレアナットを緩めても「プシュッ」とわずかに空気が入る音がするだけで、安全に配管と電線を切り離すことができました。
第5章:新規「据付板(背板)」の設置|デジタル角度計による水平出し
古い室内機を壁から降ろすと、既存の据付板(背板)と配管が現れます。


5-1. ルームエアコン施工で難易度が高い「左後ろ抜き」
上の写真を見てお気づきの通り、この部屋は設置場所の「左側」に配管用の壁穴(スリーブ)が開いています。
実は、家庭用エアコンの室内機から生えている補助配管は「右側から出て左へ向かって伸びる」構造になっています。そのため、壁穴が右側にある「右抜き」であれば、補助配管をそのまま外へ出して屋外の広いスペースでフレア接続ができるのですが、今回のような「左抜き」の場合は、室内機の裏側の狭い空間でメイン配管と結線(フレア接続)し、さらに太くなった配管の束を直角に曲げて壁穴へ押し込まなければなりません。

いきなり初陣から一番厄介な「左抜き(室内ジョイント)」を引いてしもたわ。この配管接続と断熱処理の死闘については、次回の【後編】で解説するで。
5-2. 結露水の逆流を防ぐ「完全な水平出し」
据付板を固定する際、絶対に妥協できないのが「水平(またはドレンホース側へのごくわずかな下り勾配)」です。本体が逆方向へ傾いていると、冷房時に発生したドレン水(結露水)が排水されずにドレンパンから溢れ出し、室内のクロスや家財を水浸しにすることがあります。

まずは、据付板やマニュアルで指定されている固定位置に従い、据付板を仮止めします。中央付近の1か所をビスで仮止めし、水平器(水準器)を当てて「0°」に合わせた状態で、周囲のビスを壁裏の下地にしっかりと打ち込みました。私の家には壁裏に横胴縁が施工されているため、これらを利用しました。
※壁下地やビスに関する知識についても別記事にて解説しています。
第6章:想定外のトラブル|エアコンと干渉する「電源コンセント」の移設工事
据付板の固定位置を検討している際、スケール(コンベックス)でエアコン本体の張り出し寸法を確認していたところ、問題が発覚しました。

6-1. なぜコンセントを移設しなければならないのか?
前の古いエアコンは横幅がコンパクトだったため問題ありませんでしたが、今回取り付ける2019年製SHARP機は、据付板の右端からさらに「164mm」右側まで本体が張り出す設計になっています。
スケールを当ててみると、既存のエアコン用コンセント(端から約150mmの位置)のちょうど真ん中あたりまでエアコン本体が被さってしまうことが分かりました。このままでは室内機がコンセントプレートに乗り上げて壁から浮き上がり、下ツメをロックすることができません。

据付板をこれ以上左へ寄せようにも、左にはすぐ壁穴とカーテンレールがあるから限界や。となれば、邪魔になっとるコンセントの方を下に引っ越しさせるしかないな。電気工事士の出番や!
6-2. 既存VVFケーブルの耐用年数と「再利用」の判断基準
分電盤のエアコン専用ブレーカーを遮断し、既存コンセントを壁から取り外して内部の配線(VVFケーブル 2.0mm-3C)を引き出しました。
壁内を確認すると、この専用回路は床下(下方向)から立ち上がってきていました。つまり、真下への移設であれば、新しい電線を継ぎ足さなくても既存のVVFケーブルをそのまま下に引き戻すだけで長さが足りるという好条件だったのです。
ここで「既存の古いVVFケーブルをそのまま再利用して安全か?」という点について、電気工事の実務基準を整理しておきます。
- 物理的寿命(20〜30年): 日本電線工業会(JCS)のガイドラインにおいて、直射日光(紫外線)や水濡れのない壁内隠蔽配線の交換推奨時期は20〜30年とされています。
- 被覆(シース)の柔軟性チェック: 外装のビニル被覆が熱劣化でパキパキに硬化しておらず、曲げた際に十分な弾力と柔軟性が残っていること。
- 銅線の酸化状態チェック: 先端の心線が黒ずんで(酸化して)おらず、美しい銅色(10円玉の光沢)を保っていること。酸化皮膜は接触抵抗を増大させ発熱の原因となるため、少しでも変色していれば先端を切り詰めて新しくストリップし直します。
今回の既存ケーブルは壁内で良好に保たれており、被覆の柔軟性・銅線の光沢ともに申し分なかったため、既存線をそのまま活かして真下へ移設することにしました。
まずは、マルチツールでエアコンと干渉しない位置に穴を空け、取り外したコンセントボックスを移動させて間柱にビス止めします。切り詰めた配線を再度コンセントに差し込みカバーを取り付けて完成です。今回は折角なので新しいカバーに交換しました。



6-3. 半分エアコンと被る「元のコンセント穴」はどう塞ぐか?
コンセントを真下へ移設したことで、元の位置には空っぽの四角い開口部が残りました。ここで納まりの問題が生じます。
通常、不要になったコンセント穴は市販の「メクラプレート(ブランクプレート)」で塞ぐのがセオリーです。しかし、今回は「穴の左半分にエアコン本体が被さり、右半分は外に露出する」という厄介な位置関係にあります。

市販のメクラプレートには数ミリの厚みがあります。そのまま取り付けると、プレートの左半分がエアコン背面と干渉してしまい、結局エアコンが壁から浮いてしまいますね。
クロス(壁紙)の張り替えを行わずにこの「半分被る穴」を美しく処理するアプローチは以下の通りです。
- メクラプレートの「切り欠き(突き付け)」加工: エアコン本体が被さるラインに合わせてプラスチック製のメクラプレートを直線カットし、エアコンの端部にピタリと「突き付け」で納める手法。
- 薄型補修シート+壁紙補修キットの活用: 厚みゼロの気密テープ(アルミテープ等)や極薄のベースプレートで穴をフラットに塞ぎ、上から壁紙補修シートを貼ってエアコンとの段差干渉を完全にゼロにする手法。
今回はまず室内機を確実に壁へ引っ掛けることを最優先とし、開口部を空けたまま(厚みゼロの状態)で最大の山場である「本体設置と配管接続」へ進むことにしました。
前編のまとめと次回予告:最難関「左抜き配管接続」と「真空引き」へ
ここまで、中古エアコンの丸洗い洗浄、冷媒を逃がさないポンプダウン撤去、デジタル角度計を用いた据付板の水平設置、そして第二種電気工事士の知識を活かしたコンセントの移設工事までが完了しました。
次回の【後編:設置・真空引き・試運転編】では、ルームエアコン施工で難易度が高い「左抜き配管の室内フレア接続と結露防止の断熱処理」、そしてエアコンの寿命を決定づける「真空ポンプとマニホールドゲージを使った真空引き・気密テスト」 の全手順を徹底解説します。
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参考文献・外部リソース
- 経済産業省(電気工事士法における「軽微な工事」の定義・エアコン設置に関する解釈):
https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/electric/detail/koji.html - 一般財団法人 家電製品協会(家電リサイクル券システム・適正処分ガイド):
https://www.rkc.aeha.or.jp/


