【修理実録】Marantz Model 2110|オシロスコープ不動&抵抗発煙 「動的ショート」特定とコンデンサ全交換 #オーディオ修理4

Marantz model 2110のオシロスコープ写真 Project

はじめに:音を「視る」というロマン

オーディオの歴史において、いくつかの「特異点」と呼べる機種が存在します。1970年代後半、Marantzが世に送り出したModel 2110は、まさにその一つです。

通常のチューナーとしての機能に加え、フロントパネル左側に鎮座する円形のブラウン管(CRT)。これは単なる飾りではなく、信号波形を表示する本物のオシロスコープです。音楽を聴くだけでなく、波形の揺らぎとして「視る」。このギミックに、当時のオーディオ少年たちはどれほど胸を焦がしたことでしょうか。

今回、ハードオフのジャンクコーナーでこの名機と遭遇しました。価格は17,000円。ジャンクとしては高額ですが、ネット相場を考えれば格安。しかし、その症状は深刻でした。

praxis
praxis

Model2100に引き続き、このModel2110のオシロスコープを救うで。
なあ、買ってもええやろ?な?

Logico
Logico

ダメといっても言うこと聞かないでしょ。
いいでしょう。絶対に直しなさいよ。

Marantz Model 2110の外観
美しいシンメトリーデザイン。しかし、その瞳(CRT)は光を失いかけていた。

症状の確認:死んだ「緑の瞳」

持ち帰り、恐る恐る通電確認を行います。

  • 音声:FM/AMともに受信OK。音は正常に出ている。
  • 外装:スイッチカバーが接着不良で脱落。ヒューズランプは全滅し光らない。
  • オシロスコープ:これが最大の問題でした。CRTの中央に、力のない緑色の点が一つ浮かんでいるだけ。オーディオ信号を入れても、チューニングダイヤルを回しても、光点は微動だにしません。

「輝点が動かない」ということは、偏向回路(ビームを上下左右に動かす回路)か、あるいはそれ以前の電源回路に異常があることを示唆しています。ここから、長く険しいトラブルシューティングが始まりました。

第1章:洗礼|新品パーツが「燃えた」瞬間

1-1. ヒューズ切れの発見と安易な交換

まずは内部を目視確認します。埃はそれなりですが、致命的な焦げ跡などは見当たりません。

しかし、電源基板(P800 Power Supply Unit)を確認すると、複数のガラス管ヒューズのうち、0.1A/250Vの3本が切れているのを発見しました。

「ヒューズ切れか。経年劣化で切れただけなら、交換すれば直るかもしれない」

そんな甘い期待を抱き、新品のガラス管ヒューズ(250V 0.1A)を用意しました。これらを交換し、スイッチをONにします。

1-2. 発煙、そして緊急停止

電源を入れた瞬間でした。

電源基板上の抵抗器から、一筋の紫煙が立ち上りました。慌てて電源ケーブルを抜きます。部屋に広がる、電子部品が焼ける独特の臭い。

案の定、交換したばかりのヒューズが溶断しています。

これは「経年劣化」などという生易しいものではありません。回路のどこかで完全なショート(短絡)が起きています。ヒューズが飛ぶには、飛ぶだけの理由があったのです。

電圧回路の写真
上:高圧注意シールが貼られたブラウン管 下:電圧回路(ヒューズを全て外している状態)

【教訓】ヒューズ交換の鉄則

ヒューズが切れている場合、必ず「過電流が流れた原因」が存在します。原因を特定・排除せずにヒューズだけを交換して通電するのは、今回のように他の部品(抵抗やトランジスタ)を道連れにして焼損させるリスクがあるため、絶対に避けるべきです。

第2章:捜査|ショート箇所を特定せよ(アイソレーション)

抵抗が燃えたということは、そのラインに過大な電流が流れているということです。しかし、闇雲に部品を交換しても、また燃やすだけです。ここからは回路図(Service Manual)を頼りに、論理的に犯人を追い詰めていきます。

2-1. 回路の切り分け(アイソレーション)

まずは、ショートしているのが「電源回路(P800)そのもの」なのか、それとも「電源が供給されている先の回路」なのかを判別する必要があります。

Marantz Model 2110は、各基板がワイヤーで接続されています。これを一つずつ外していくことで、問題箇所を切り分けます。

裏側から見た基盤全体
機能ごとの基盤は分かれており、ワイヤーで接続されているため、ワイヤーをコネクタから外すことで絶縁できる。
  1. Pr00(Scope Display Switch)への供給ラインを遮断:オシロスコープの表示切替を行うスイッチ基板への配線を外します。
  2. P900(Scope Amp)への供給ラインを遮断:CRTを駆動するアンプ基板への配線を外します。

コネクタを外し、各回路(P800, Pr00, P900)が電気的に独立した状態にします。この状態で、テスターを使って各基板の電源ラインとグランド間の抵抗値を測定します。

判定基準:もし抵抗値が0Ω近くまで下がっていれば、その基板内の部品がショートしています。

2-2. 深まる謎:テスターでは「シロ」

測定結果は予想外のものでした。

  • P800(電源基板):抵抗値 極大(ショートなし)
  • Pr00(スイッチ基板):抵抗値 極大(ショートなし)
  • P900(アンプ基板):抵抗値 極大(ショートなし)

「えっ、ショートしていない?」テスター(印加電圧 約9V)で測る限り、全ての回路は正常な絶縁を保っています。しかし、電源をONにして実動作電圧がかかると、確実に何かがショートし、抵抗が燃えるのです。

念のため、疑わしいコンデンサ(燃えた抵抗の先にある平滑用コンデンサなど)をパーツチェッカー「DSO-TC3」で個別に検査しました。 結果は「Capacitor 10.5μF」……正常値を示します。

パーツチェッカー画像
こんな感じで抵抗などの電子部品を判定できます。壊れている場合は判定不能と表示されます。

2-3. 「動的ショート」という結論

静的な検査(テスター、パーツチェッカー)では正常。導通チェックでも完全な短絡反応はありませんでした。

しかし、動的な状況(通電時)ではショートする。 この矛盾する現象の正体は、コンデンサの「絶縁破壊(動的ショート)」しか考えられません。

【技術解説】テスターの限界

テスターやDSO-TC3などの安価な測定器は、数ボルトの低い電圧で測定を行います。しかし、このModel 2110の高圧回路にはDC200V〜400V近い電圧がかかっています。
劣化した古い電解コンデンサの中には、「低い電圧では絶縁を保っているが、ある一定以上の電圧(閾値)を超えると絶縁が破れて導通(ショート)してしまう」という壊れ方をするものがあります。これを見抜くには、実際に高電圧をかけるしかありません。

本来、これを見抜くには「絶縁抵抗計(メガー)」などの高圧対応の測定器が必要ですが、高価な専門機器を個人で所有しているケースは稀です。そこで今回は、「疑わしい部品を回路から外した状態で通電し、異常(発煙)が止まるかを確認する」という、論理的な消去法を用いて特定に至りました。

※注意:コンデンサ単体に別回路で高圧をかけるテストは、破裂や感電の危険があるため、基板上での「切り分け」による特定が最も安全で確実な方法だと考えますが、実行の際はご自身の責任にて安全に実行してください。

2-4. 真犯人の特定と実証

この仮説を実証するために、手荒な勝負に出ます。

燃えた抵抗(R809 4.7kΩ)よりも下流に配置されている、最も怪しい電解コンデンサ(10μF)を基板から取り外した状態で、電源をONにします。

Praxis
Praxis

スイッチONや。ぽちっとな。

……煙が出ません。抵抗も熱くなりません。

確定です。テスターの前では「良品」の顔をしていたこのコンデンサが、高電圧がかかった瞬間に牙を剥き、回路をショートさせていた真犯人でした。このショートにより、オシロスコープ回路へ行くべき電流が全てグランドへ流れ落ち、結果として「光点が動かない(回路が動作しない)」状態を引き起こしていたのです。

第3章:再生|徹底的な部品交換と是正

原因は特定できました。ここからは、再発防止を含めた徹底的な修理を行います。今回使用した部品は、信頼性の高い日本メーカー製を中心に選定しました。

4-1. コンデンサと抵抗の刷新(P800/Pr00)

まずは電源基板(P800)です。動的ショートを起こしていたコンデンサだけでなく、電源基盤の全てを新品に交換します。

  • 高圧部コンデンサ:10μF 400V(ルビコン PXシリーズ)。元は250Vや350V定格でしたが、耐圧に余裕を持たせて400V品(105℃対応)を採用しました。
  • 低圧部コンデンサ:470μF 25V、2200μF 35Vなど(ルビコン PX/日本ケミコン LXJ)。電源平滑用の要です。
  • 抵抗器の強化:発煙した抵抗器(4.7kΩ)は、炭素皮膜抵抗の1W品(許容電力の大きいもの)へ交換しました。純正よりも熱に対する余裕を持たせ、再発を防ぎます。
電源基盤の写真。交換したコンデンサを示す
問題となっていた抵抗とショートしたコンデンサを含めた電源回路の電解コンデンサを交換した。

4-2. 前オーナーの「誤修理」を正す

作業中、スイッチ基板(Pr00)に違和感を覚えました。回路図と照らし合わせると、指定とは異なる容量のコンデンサが取り付けられていたのです。おそらく、過去の所有者が修理を試みて手持ちの部品で代用したのでしょう。

ここも正規の値に戻します。積層セラミックコンデンサ(0.22μF、0.022μF)とフィルムコンデンサ(0.047μF)を秋月電子で購入し、全て仕様通りに打ち替えました。

ディスプレイスイッチ基盤
赤丸で囲んだコンデンサを交換した。オレンジ色の電解コンデンサの容量が10倍異なる値で誤って交換されていた。
赤と黒のクリップをコンデンサに接続することにより、パーツチェッカーで値を測定している。

4-3. LED化と外装補修

仕上げはドレスアップです。Model 2100同様、切れていたヒューズランプ(6本)を、アイスブルー色のLEDに交換します。これにより発熱を抑えつつ、クールな発光を実現します。
※Model2100の修理に関しては、こちらをご確認ください。

  • 部品:AC8V LEDヒューズランプ(アイスブルー色)
  • 入手先:AliExpress(約1,500円 / 11本セット)
    ※「Tecolampe fuse lamp」などで検索すると出てくると思います。

また、外れてしまっていたスイッチカバーは、「セメダイン スーパーX」で接着しました。瞬間接着剤は衝撃に弱く、また白化して見栄えを損なうため、弾性のあるスーパーXが最適です。
※接着剤に関してはこちらでも解説しています。

ヒューズランプをLEDに交換した。
スイッチカバーの接続不良を修理。

第4章:理論|なぜ光点は動くのか?

修理後の写真をお見せする前に、このModel 2110の最大の特徴である「オシロスコープ」がどのように音楽を表示しているのか、その仕組みを簡単に解説します。

4-1. X軸とY軸のダンス(リサージュ図形)

ブラウン管(CRT)は、電子銃から発射された電子ビームを、偏向板にかかる電圧で上下(Y軸)・左右(X軸)に曲げることで光点を移動させます。

  • オーディオモード(Audio Display):
    • Y軸(垂直):Lチャンネル(左)の音声信号電圧で上下に振れます。
    • X軸(水平):Rチャンネル(右)の音声信号電圧で左右に振れます。

この2つの動きが合成されると、以下のような図形(リサージュ図形)が描かれます。

  • モノラル信号(L=R):XとYが同じ量だけ動くため、「右上がりの直線」になります。
  • ステレオ信号(L≠R):左右で位相や音量が異なるため、複雑に広がる「雲のような図形」になります。

今回の故障は、電源回路のショートにより、この偏向板を駆動するための高電圧(アンプ回路への電源)が供給されず、電子ビームを制御できなくなっていたことが原因でした。

Logico
Logico

画面中央に点が止まっていたのは、「無信号(電圧ゼロ)」の状態が維持されていたため「無音」として表示されていたのですね。

第5章:結果と費用|2万円で手に入れた「波形」

全ての作業を終え、再び電源を投入します。

Praxis
Praxis

緊張の一瞬や。ぽちっとな。

煙は……出ない。ヒューズも飛ばない。

数秒後、CRTの中に緑色の輝点が現れました。FM放送にチューニングを合わせると、その点は生き物のように上下左右に広がり、音楽に合わせて踊り始めました。修理成功です。

生き返りました。感無量。

かかった費用(送料込み)

項目 費用
Marantz Model 2110本体 17,000円
ヒューズ(ELPA 0.1A)×3袋 800円
LEDランプ(6本使用) 約800円
コンデンサ・抵抗類一式 1,200円
合計 約19,800円

※上記の価格は送料込み価格です。

まとめ:見えない故障との闘いを終えて

約3,000円の投資で、この素晴らしいギミックを持つチューナーが蘇りました。AM受信時のノイズ(PC等の高周波ノイズを拾いやすい設計)などの古さゆえの弱点はありますが、波形を見ながらFMを聴く体験は、現代のデジタル機器では決して味わえない贅沢な時間です。

ふつくしい。サイバーパンク感があって良い。

今回の修理で得た最大の教訓は、「テスターの数値を過信するな」ということ。電子工作の基本中の基本ですが、それを実体験として(少々の煙と共に)学ぶことができたのは、プライスレスな経験でした。

praxis
praxis

部屋の明かりを落として、青いパネルと緑の波形を眺める。これだけで酒が進むわ。動的ショートなんていう厄介なボスキャラを倒した後の酒は格別やな。

Logico
Logico

良くやったね、praxis。私のコレクションに追加です。後で書斎に運んでおいてね。

praxis
praxis

…。

参考文献・外部リソース

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