オーディオは、耳で聴く前に、目で聴いているのかもしれない。
praxis
はじめに:8,800円で買える「光る芸術品」
現代のオーディオ機器が失ってしまったもの。それは「操作する喜び」と「眺める喜び」です。
ハードオフのジャンクコーナーで、ひときわ異彩を放つ個体を見つけました。Marantz Model 2100。1978年頃に発売された、バリコン式FM/AMチューナーです。
プライスタグは8,800円。症状は「ランプ切れ、汚れあり、ゴム脚なし」。
しかし、その対称(シンメトリー)のデザイン、重厚なアルミパネル、そして伝説の「ジャイロタッチ・チューニング」ホイールは、薄汚れていても隠しきれない品格を漂わせていました。
今回の修理の目的は、音質の追求ではありません。この美しい機械を本来の姿に戻し、「最高にエモいインテリア」として部屋に鎮座させること。それが全てです。

Logico、これもお宝や。頼むさかいにこれ買ってくれや。かつてのmarantzの輝きを取り戻してみせるさかいに。なあ、頼むで。

…。すきにしなさい。
第1章:美の修復|アルミパネルの「漂白」洗浄
持ち帰って明るい場所で見ると、前面のアルミパネルは長年の皮脂汚れとタバコのヤニ(推定)で黄ばみ、本来のシャンパンゴールドのような輝きが失われていました。また、ゴム脚も紛失している状態です。

1-1. 分解:パネルを裸にする
まずは洗浄のために「服」を脱がせます。
- ツマミの取り外し:全てのツマミを引き抜きます。固着している場合は、隙間に紐などを通して均等に力をかけて引っ張ります。
- 六角ボルトの除去:Marantzデザインの象徴である四隅の六角ボルトを外します。これがパネル固定を兼ねています。
- パネル分離:固定ナットを外し、アルミパネル単体にします。
1-2. 秘密兵器「マジックリン」による脱脂
通常、アルミパネルの洗浄には中性洗剤を使いますが、こびりついた有機汚れ(皮脂・ヤニ)には力不足でした。そこで今回は、「マジックリン(強力分解タイプ)」を使用しました。
【重要】マジックリン洗浄の注意点
マジックリンはアルカリ性です。アルミニウムはアルカリに弱く、長時間触れると腐食(白化)する性質があります。 そのため、以下のルールを徹底しました。
- 短時間勝負:泡を吹きかけたら、すぐに柔らかいスポンジやブラシで汚れを浮かせ、数分以内に洗い流す。
- 徹底的なすすぎ:成分が残らないよう、大量の水で完全に洗い流す。
結果、パネルは新品同様のヘアラインの輝きを取り戻しました。くすんでいたシルバーが、冷たく鋭い光を反射するようになります。


第2章:光の再生|LEDヒューズランプへの換装
次は「マランツ・ブルー」の復活です。電源を入れてもメーター周りが暗いままでした。
2-1. ヒューズランプとは?
この時代のオーディオ機器には、ガラス管ヒューズと同じ形状をした「ヒューズランプ(白熱電球)」が多用されています。当然、数十年経てばフィラメントは切れます。
今回は、純正の白熱球ではなく、LEDヒューズランプへ全交換します。
- 部品:AC8V LEDヒューズランプ(アイスブルー色)
- 入手先:AliExpress(約1,500円 / 11本セット)
※「Tecolampe fuse lamp」などで検索すると出てくると思います。

※AliExpress商品は必要量以上にまとめて購入しておくことをおすすめします。
2-2. LED化のメリット
- 熱対策:白熱球はかなり発熱するため、プラスチック製のハウジングを熱で溶かしたり変形させたりする原因になります。LEDなら発熱は少ないです。
- 発色の良さ:マランツ特有の「ブルー」を美しく出すには、電球色よりも寒色系のLEDの方が相性が良く、透き通るような青を実現できます。
- 長寿命:次にランプ切れで開ける必要がほぼなくなります。
交換作業は簡単です。基板上のヒューズホルダーに刺さっている古いランプを抜き、LEDランプを差し込むだけ。極性(+−)がないAC点灯タイプを選べば、向きを気にする必要もありません。


第3章:足回りのリフレッシュ|ゴム脚の交換
見落としがちなのが「底面」です。純正のゴム脚は経年劣化でカチカチに硬化し、グリップ力を失っているどころか、加水分解でベタベタに溶けて設置面を汚すこともあります。
今回のジャンクでは、ゴム脚が欠損した状態でしたので新しいものを取り付けます。
今回は、汎用のゴム足に交換しました。これにより、ラックに置いた時の安定感が増し、微振動の吸収も期待できます。「おしゃれは足元から」と言いますが、オーディオも同様です。

第4章:インテリアとしての完成
4-1. ジャイロタッチ・チューニングの快感
組み立て直し、電源を投入します。 一瞬の間を置いて、パネル奥から鮮やかなブルーの光が浮かび上がりました。部屋の照明を落とすと、その美しさは息を呑むほどです。
そして、マランツの代名詞「ジャイロタッチ・チューニング」。 横回しの巨大なホイールを指で弾くと、フライホイール効果で「スーッ」と滑らかに慣性で回転し、針が周波数を移動していきます。このアナログな操作感は、デジタル選局ボタンでは絶対に味わえない快楽です。

4-2. AMのノイズと割り切り
動作確認の結果、FMはステレオで綺麗に受信しましたが、AMに関しては課題が残りました。
症状:AMの受信感度が異様に高く(あるいはAGC回路の特性か)、PCやルーターなどの家電製品のスイッチングノイズを盛大に拾ってしまいます。クリアに聴くには、部屋の他の家電を消す必要があります。
しかし、今回はこれを「修理完了」としました。
なぜなら、私の用途が「FMラジオをBGMにする」か、あるいは「電源を入れてメーターが光っているのを眺める」ことだからです。AMラジオの実用性よりも、この筐体が部屋にあることの満足感が上回りました。古い機械には、完璧を求めすぎず、その癖と付き合う寛容さも必要です。
まとめ:1万円ちょっとで手に入る「満足感」
今回のレストアにかかった費用です。
| 項目 | 費用 |
|---|---|
| Marantz Model 2100本体 | 8,800円 |
| LEDヒューズランプ | 約1,250円 |
| 洗浄剤(マジックリン等) | 数円 |
| 交換用ゴム脚 | 約400円 |
| 合計 | 約10,500円 |
約1万円で、これほど所有欲を満たしてくれるインテリアは他にないでしょう。 薄暗い部屋で、青く光るアナログメーターの針が振れるのを見ながら、ジャズやシティポップを流す。それだけで、安い焼酎がヴィンテージ・ウイスキーの味に変わる(ような気がします)。
ジャンク修理の醍醐味は、安く直すことだけではありません。忘れ去られた「美しさ」を再発見し、自分の手で磨き上げるプロセスそのものに価値があるのです。

マジックリンですっきり汚れを落として、新しい靴(ゴム脚)を履かせて、ライトアップ。これでもう立派な芸術品やで。

普段からその美意識を生き方にも反映してくれると良いのだけど。
その芸術品の費用を捻出するために、これからもこき使ってあげるからね。
参考文献・外部リソース
- オーディオの足跡様(より詳しい機種解説):
https://audio-heritage.jp/MARANTZ/tuner/model2100.html - ハードオフ様(いつもお世話になっております):
https://www.hardoff.co.jp/
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