音楽は、精神の中から日常生活の塵埃を掃除する。
J.S.バッハ
はじめに:ジャンクコーナーの青い箱
ハードオフジャンクコーナー。そこは、かつて誰かの宝物だったものが「動作保証なし」の烙印を押され、積み重なる場所です。しかし、知識を持つ者にとって、そこはガラクタ置き場ではなく、研磨されるのを待つ原石の鉱山となります。
今回保護したのは、SONY CDP-228ESD(1988年発売)。
プライスタグには「トレイ開きません。6,600円」の文字。
多くの人は通り過ぎるでしょう。しかし、私の脳内では瞬時に計算が走りました。
「トレイが開かないだけ? モーター音がするならベルト切れの可能性90%。もしKSS-151Aピックアップが生きていれば、これは6,600円のゴミではなく、数万円の価値がある資産だ」
これはギャンブルではありません。勝算の高い「救出作戦」です。

Logico、頼むさかいにこれ買ってくれや。絶対直してみせるから。ほんま、この通りや。これはギャンブルちゃうねん。勝ち確やねん。

もうしょうがない子ね。直せなかったら、自分で処分するのよ。
第1章:バブルの遺産を解剖する
1-1. なぜ「228ESD」なのか?
現代の10万円クラスのCDプレーヤーでも太刀打ちできない「バブル期特有のオーバークオリティ」が、この筐体には詰まっています。
- ピックアップ:KSS-151A
リニアモーター駆動による爆速アクセス。ギア駆動の安物とは次元が違う、高級機の証。現在、中古市場ではこの部品単体でも高値で取引されています。
- DAC:Burr-Brown PCM58P x2
マルチビットDACの傑作。現代の主流であるΔΣ(デルタシグマ)変調とは異なる、骨太でエネルギー感のある音が特徴。
- ジブラルタルシャーシ
炭酸カルシウムを混ぜた特殊樹脂で振動を徹底排除する、SONY独自の高剛性シャーシ。

第2章:分解と診断
2-1. 開腹手術
まずは天板を外します。内部は埃も少なく、保管状態は悪くありません。
電源を入れ、イジェクトボタンを押すと「ウィーン」というモーターの空転音が聞こえます。やはり、モーターの動力をトレイに伝える「ゴムベルト」が劣化し、滑っているようです。

古いCDプレイヤーに良く見受けられる症状ですね。ゴムベルト交換で修理できる予感がします。
2-2. メカを取り外す
CDP-228ESDのメカを取り出すには、トレイ開口部の特殊ゴム材を外す必要があります。ここはやや慎重さが求められるポイントです。
- メカを固定しているネジを外す。
- メカから出ているフラットケーブルを基盤から外しておく。
- トレイ開口部の特殊ゴム材を外す。
- 内側にユニットを引き出します。



2-3. 伝説のピックアップ「KSS-151A」との対面
メカの裏側を確認します。ここに、オーディオファン垂涎のピックアップ「KSS-151A」が鎮座しています。

トレイが開かないということは、裏を返せば「酷使されてレンズが寿命を迎えている可能性」よりも、「単に放置されてゴムが死んだだけ」という可能性が高いことを意味します。レンズ表面を目視確認しましたが、白濁もなくクリアな輝きを放っています。
第3章:35円の部品がすべてを止めていた
トレイが開かない原因は、やはり「ゴムベルト」でした。
3-1. 劣化したベルトの除去と清掃
取り外したベルトは、加水分解が進み、本来の弾力を失って伸び切っていました。これではモーターの動力をプーリーに伝えることができません。

ここで重要なのが「清掃」です。ただ新しいベルトを掛けるだけでは不十分です。プーリーには、古くなったゴムのカスや油分が付着しています。これを放置すると、新品のベルトでも滑ってしまいます。
綿棒に無水エタノールを含ませ、プーリーの溝を徹底的に拭き上げます。綿棒が黒くならなくなるまで繰り返す。この「ひと手間」が、修理の永続性を決めます。
- 使用ケミカル:健栄製薬 無水エタノールIP
3-2. PHOENIXベルトとシリコングリス
交換用ベルトには、Amazonで購入した汎用セットを使用しました。
- 部品:PHOENIX 角ゴムベルト 20本セット(幅1mm)
- 価格:約700円~(1本あたり約35円)
セットの中から、外したベルトよりひと回り小さいサイズ(折長40mm前後)を選定し、装着します。適度なテンションを確認します。
ついでに、トレイの摺動部(レール)とプラスチックギア部分の古いグリスを拭き取り、新しいグリスを塗布します。
- 使用ケミカル:三共コーポレーション GA エースシリコングリース
プラスチックを侵さないシリコングリスを使うのが鉄則です。これにより、トレイの動きがスムーズになり、モーターへの負荷も軽減されます。
第4章:動作確認と試聴
メカを本体に戻し、フロントパネルを装着。緊張の電源ONです。
イジェクトボタンを押すと……
「ウィーン、カシャッ」
重厚かつスムーズにトレイが開きました。この瞬間、ただの箱が「製品」に戻ります。


やったで。この瞬間のために生きてんのや。
4-1. KSS-151Aの生存確認
CDをセットし、クローズ。トレイが閉まった一瞬後、ディスプレイに「Total Time」が表示されました。TOC(目次情報)の読み込み成功です。
再生ボタンを押すと、瞬時にトラック1がスタート。リニアモーター駆動ならではの爆速選曲も健在です。

4-2. 音質評価:PCM58Pの説得力
ヘッドホンを繋いで試聴します。その音は、現代のハイレゾ音源のような「粒子の細かいサラサラした音」とは対極にあります。
中低域の厚み、スネアドラムのアタック感、ボーカルの実在感。Burr-Brown PCM58PマルチビットDACが奏でる音は、音楽を「情報」としてではなく「熱量」として伝えてきます。これが、バブル期のSONYの音です。
まとめ:捨てないという選択肢
今回の修理にかかったコストを整理します。
| 項目 | 費用 |
|---|---|
| CDP-228ESD本体 | 6,600円 |
| ゴムベルト(1本) | 約35円 |
| ケミカル類(微量) | 数円 |
| 合計 | 約6,650円 |
わずか35円のベルトが切れただけで、この素晴らしい音響機器は「ジャンク(廃棄物)」として扱われていました。もし私が保護しなければ、最悪の場合廃棄されていたかもしれません。
「壊れたら買い替える」のが現代の常識かもしれません。しかし、ドライバーを握り、蓋を開け、構造を理解することで、モノは再び命を吹き返します。
自分で直したオーディオで聴く音楽は、どんな高級機よりも良い音がします。あなたも、ハードオフの青い箱の中から、自分だけの宝物を探してみてはいかがでしょうか。

ほら、言った通りに直ったやろ。わしにかかれば、こんなもんやで。

直せなくて、絶望している時もあるくせに。あんまり調子に乗らないでよ。
参考文献・外部リソース
- オーディオの足跡様(より詳しい機種解説):
https://audio-heritage.jp/SONY-ESPRIT/player/cdp-228esd.html#google_vignette - ハードオフ様(いつもお世話になっております):
https://www.hardoff.co.jp/
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