はじめに:美しきラジカセの「二つの持病」
SONY CFD-S401。インテリアに馴染むモダンなデザインと、十分な音質を兼ね備えた名機です。しかし、この機種は経年とともに、ユーザーを困惑させる「二つの深刻な持病」を抱えることでも知られています。
- ボタンの反乱(誤動作):「音量を上げようとしたらラジオに切り替わる」「停止ボタンで電源が落ちる」など、押したボタンとは異なる動作をする怪奇現象。
- 沈黙するCD(NO DISC):ディスクを入れても読み込まず、「NO DISC」と表示される。
今回は、母親からの依頼により、この両方の症状を根本から治療することになりました。CD修理に関しては、「SF-P101 16P」という汎用部品を使用しますが、これは単なる交換では動きません。基板の移設、はんだ除去、そしてモーター極性の管理という、注意深い外科手術が必要です。
本記事では、この修理プロセスを事象の構造から解き明かし、論理的に解決する手順を提示します。
商品概要については下記リンク先をご参照ください。
https://www.sony.jp/radio/products/CFD-S401/?srsltid=AfmBOoqRY0TKYnixnwXO4YiBf0A7zGUweEwP78jIzzvt9dHzraWOzwbM
第1章:ボタン誤動作の解剖学
1-1. なぜ「違うボタン」として認識されるのか?
「ボタンを押すと違う機能が動く」。一見すると制御ICの暴走や、悪霊の仕業のように思えますが、これは「抵抗分圧方式(Resistor Ladder)」という回路設計に起因する、極めて物理的な故障です。
【構造解説】抵抗分圧方式とは
通常、スイッチは「1つのボタンに1本の信号線」が必要ですが、ボタン数が増えると配線が大量になりコストが嵩みます。そこでSONYなどのメーカーは、以下のような仕組みを採用しています。
- 仕組み:1本の信号線に複数のスイッチを繋げ、各スイッチに異なる「抵抗値」を持たせる。
- 判定方法:CPUは「返ってきた電圧(抵抗値によって変化する)」を読み取り、どのボタンが押されたかを判断する。
- 例:
・0Vなら「再生」
・1.5Vなら「音量UP」
・2.5Vなら「ラジオ切替」
正常時はこれで問題ありません。しかし、経年劣化によりタクトスイッチ内部の金属接点が酸化・汚損すると、接触抵抗(本来は0Ωであるべき抵抗)が増加します。
すると、計算上の電圧値がズレてしまいます。例えば、「音量UP」を押したのに、汚れによる抵抗が加わったことで電圧が上昇し、CPUが「この電圧値は…ラジオ切替だな!」と誤認するのです。これが、ボタン誤動作の正体です。
1-2. 解決策:コンタクトスプレーによる化学療法
この症状を完治させるには、スイッチ内部の酸化皮膜を除去し、抵抗値を正常(ほぼ0Ω)に戻す必要があります。全スイッチの交換が最善ですが、はんだ付けの手間を考えると、「接点復活剤(コンタクトスプレー)」の使用が最も合理的です。
使用ケミカル
- KURE(呉工業) コンタクトスプレー:ゴムやプラスチックへの攻撃性が低く、微量で強力な洗浄効果を発揮します。
作業手順
- 基板の露出:本体裏面のネジを外し、筐体を開けます。前面パネル裏にある操作基板にアクセスします。
- スプレーの塗布:タクトスイッチの隙間(押し込む部分のわずかな隙間)を狙い、コンタクトスプレーをごく少量吹き込みます。
※大量に吹きかけると、周囲の部品や基板パターンを侵す可能性があるため、ティッシュ等で養生しながら「シュッ」と一瞬だけ吹きます。
- 浸透と洗浄:薬剤を行き渡らせるため、スイッチを20回〜30回程度、カチカチと連打します。これにより接点の汚れが落ちます。
- 拭き取り:はみ出した液剤は綿棒などで綺麗に拭き取ります。


奥の塊:ボタン操作基盤、カセットテープ・CDプレイヤー制御基板

5-56のような潤滑剤は絶対に使ったらあかんで。あれは油膜を作って逆に通電不良を起こしたり、プラスチックを溶かしたりする。必ず「接点復活剤」を使うこと。これが鉄則や。
第2章:CFD-S401の準備|部品選定と「三つの罠」
ボタンが直ったら、次はいよいよ本丸であるCDドライブの修理です。ここからは少し難易度が上がります。
2-1. 交換部品の選定:SF-P101 16P
CFD-S401に適合するピックアップユニットは、SANYO製のメカニズムを採用した汎用品です。市場には複数の種類が出回っていますが、ピン数に注意する必要があります。
- 部品名:SF-P101 (SF-P101N) 16P(16ピンタイプ)
- 価格相場:約1,500円(AliExpressやAmazonなどで入手可能)
注意:15ピンタイプも存在するため、必ず現物のフラットケーブルのピン数を数えるか、「16P」と明記されたものを購入してください。
2-2. 待ち受ける「三つの罠」
部品を買ってきて交換すれば終わり、ではありません。この機種の修理には、以下の技術的ハードルが存在します。
| No. | 罠の内容 | 対処法 |
|---|---|---|
| ① | 基板の分離不可 | モーター端子がはんだ付けされており、吸い取り線等での除去が必須 |
| ② | モーター極性 | 新しいモーターの+−を間違えると逆回転します |
| ③ | カバーの欠如 | 黒い遮光カバーを旧品から剥がし、適切な接着剤で移植する |
次章では、これらの罠を回避するための具体的な材料と手順を解説します。
2-3. 必須アイテム:セメダイン スーパーX クリア
特に重要なのが、黒いカバーの移植に使用する接着剤です。振動するCDメカ内部で使用するため、以下の条件を満たす必要があります。
- 耐衝撃性:カチカチに固まらず、振動を吸収する弾性があること。
- 無溶剤:プラスチック(ABSやポリアセタール)を溶かしたり、ガスでレンズを曇らせたりしないこと。
- 速乾・粘度:垂直面でも垂れにくく、かつ作業時間が確保できること。
これら全ての条件を満たす最適解が、「セメダイン 超多用途接着剤 スーパーX クリア」です。アロンアルフアなどの瞬間接着剤は、白化現象(ガスで周辺が白くなる)を起こしてレンズをダメにするリスクがあるため、使用しない方がよいと思います。
接着剤の解説についてはこちらもご参照ください。
第3章:基板分離手術|はんだ吸い取りの極意
CFD-S401のCDメカ(SF-P101 16Pタイプ)は、制御基板がモーターの端子に直接はんだ付けされ、一体化しています。新しい汎用ユニットにはこの基板が付属していないため、旧ユニットから無傷で剥がして移植する必要があります。
3-1. 4つの拘束具(はんだ)を解く
基板を固定しているのは、スピンドルモーター(ディスク回転用)とスレッドモーター(ピックアップ移動用)の端子、計4箇所です。
※分解する前に写真を撮っておくことをお勧めします。元に戻す際のヒントになります。

作業手順:
- はんだ吸い取り線の使用:はんだ吸い取り線(ウィック)を端子の上に置き、その上から加熱したコテを当てます。毛細管現象ではんだが吸い取られていきます。
※吸い取りにくい場合は、手持ちのはんだを少し足してから除去するとよいです。 - 完全除去の確認:吸い取り終わったら、精密ドライバーやピンセットの先で、端子を軽くつついてみます。端子が穴の中でカカタカタと動けばOKです。固着している場合は、再度吸い取ります。
- 基板の取り外し:全ての端子がフリーになったら、垂直に持ち上げて取り外します。

ここで無理やり基板を引っ剥がすと、基板上の銅箔(ランド)が剥がれて再起不能になるで。「急がば回れ」や。端子が動くようになるまで徹底的に吸い取るんや。
第4章:モーター極性の罠と回避
4-1. 逆回転の恐怖
ここが多くのDIYチャレンジャーが陥る最大の罠です。モーターの極性と逆に接続してしま場合があります。もし極性が逆のまま取り付けると、CDが高速で逆回転し、暴走します。最悪の場合、制御ICが焼損します。
今回は、スピンドルモーター軸に付属している部品ごと既存ユニットからモーターを取り外して移植し、スレッドモーターは移植せずに、新規パーツのものを使いました。そのため、それぞれのモーターが再利用する基盤と正しく接続されていることを確認する必要があります。

※今回は、フラットケーブルも使いまわしました。
4-2. 極性合わせの手順
新しいユニット(SF-P101 16P)を既存の基板にセットする前に、必ず以下の確認を行います。
- マーキングの確認:モーターの底面(端子が出ている面)に「+」や赤色のマーキングがあるか確認します。
- 基板の照合:取り外した基板の裏面にも「+」や「M+」といったシルク印刷があります。
- 整合性のチェック:基板を重ねた時、基板の「+」とモーターの「+」が一致するか確認します。
もし汎用品のモーター端子の位置関係で極性が逆になる場合は、モーター単体を回転させて取り付けるか(配線の長さが許す場合)、最悪の場合はパターンカットとジャンパ線で配線を入れ替える必要があります。しかし、通常「SF-P101 16P」として正しく販売されているものであれば、そのまま適合するケースが大半です。
移植前の写真を撮影しておき、同じ位置であるかどうかを確認するだけでもよいですが、「確認する」という行為そのものが重要です。
第5章:黒いカバーの移植|セメダインスーパーXの出番
純正ユニットの上部には、迷光や埃を防ぐための「黒いプラスチックカバー」が装着されていますが、汎用品にはこれがありません。これを移植します。また、四隅の色鮮やかなゴムたちも移植します。

5-1. なぜ「スーパーX クリア」なのか?
このカバーの接着には、接着剤の選定が命取りになります。
- NG:アロンアルフア(瞬間接着剤)
揮発成分がガス化し、近くにあるピックアップレンズを白く曇らせる(白化現象)リスクがあります。絶対にNGです。
- NG:ゴム系溶剤接着剤(G17など)
糸を引きやすく、作業性が悪いうえに、プラスチックを侵す可能性があります。
- BEST:セメダイン 超多用途接着剤 スーパーX クリア
無溶剤でレンズに優しく、硬化後もゴムのような弾性を持ちます。常に微振動しているCDメカにおいて、振動で剥がれず、かつ衝撃を吸収するこの接着剤は「最適解」です。
5-2. 移植手順
- 剥離:旧ユニットのカバーを、デザインナイフ等を隙間に入れて慎重に剥がします。
- 塗布:剥がしたカバーの接着面に、スーパーX クリアを薄く塗布します。
- オープンタイム:ここがポイントです。塗布後、すぐに貼り付けず1〜2分放置します。これにより粘着力が増し(タックが出る)、垂直面でもズレなくなります。
- 圧着:新ユニットの所定の位置に貼り付け、軽く押さえます。完全硬化まで動かさないようにします。
第6章:最終工程|ショートランド解除と結合
6-1. 基板の合体
基板を新ユニットに載せ、4箇所のモーター端子を再度はんだ付けします。この時、はんだを盛りすぎないように注意します。隣のパターンとショートしていないかルーペで確認してください。
6-2. ショートランドの解除(忘れ厳禁)
最後に、ピックアップから伸びているフラットケーブル(あるいは基板上)にある「ショートランド」を解除します。これは静電気防止のために半田でショートされている部分です。
はんだ吸い取り線を使って、この半田ボールを除去し、2つのランドを分離(オープン)させます。これを行わないと、レーザーは永遠に発光しません。


ショートランドの解除は、全ての配線作業が終わった「最後」に行うのが理想的です。早めに解除してしまうと、作業中の静電気で繊細なレーザーダイオードを破壊するリスクが高まります。
第7章:動作確認と結論
全てを逆の手順で組み立て、電源を入れます。緊張の瞬間です。
- ボタン:意図した通りに反応するか? → 接点復活剤の効果で完璧に動作。
- CD:「NO DISC」ではなく、TOC(総曲数と時間)を読み込むか? → SF-P101 16Pへの換装により、力強い回転音とともに認識成功。

まとめ:1,500円で得られる「知の更新」
今回の修理にかかった費用は、ピックアップ部品代の約1,500円(と少量のケミカル代)のみです。メーカー修理や買い替えに比べれば、圧倒的なコストパフォーマンスです。
※このCDラジカセはリコール対象商品でしたが、現在は受付終了しています。
しかし、真の報酬は「節約できた金額」ではありません。 ブラックボックス化されていた「ボタンの仕組み」や「CD読み取りの構造」を理解し、自分の手で論理的に解決したという「身体的な手応え」です。
SONY CFD-S401は、適切なメンテナンスを施せば、まだまだ現役で美しい音楽を奏でてくれます。この記事が、あなたの愛機の延命に役立つことを願っています。

全く動かなかったオーディオ機器が音を奏で始める。これだから修理はやめられへん。
これからも、オーディオ機器を中心に家電製品の修理を紹介していきますので、是非みてください。


